2017年度第2回 パレスチナ/イスラエル研究会 報告

■山本健介(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程、日本学術振興会特別研究員)
「ユダヤ・イスラームの聖なる都市をめぐる紛争とパレスチナ人の抵抗――オスロ合意以降のエルサレム/クドゥスとヘブロン/ハリールを事例に――」

山本氏の報告は、エルサレムとヘブロンというパレスチナにおける二つの聖地をめぐる紛争がどのように展開され、その紛争において、パレスチナ人がいかなる抵抗を実践しているかを明らかにするものであった。
聖なる都市をめぐる紛争に関する先行研究は、「言説上の競合」(その空間における諸権利や宗教理念、思想、イデオロギー対立)や「占領システム」、「イスラエル側の動向」に視点が偏っており、パレスチナ人の視点に注目した研究が「不在」であるという課題を抱えている。したがって、パレスチナ人による抵抗に注目することで、聖なる都市をめぐる都市をめぐる紛争をバランスのとれた形で理解できるようにすることが必要であると提唱された。
こうした見地から、エルサレムとヘブロンという二つの聖都の結びつきと政治性・抵抗運動の性質の差異について報告がなされた。まず、二つの聖都の結びつきとして、以下の三つの構造的類似点が挙げられた。すなわち、①都市部における入植地の存在、②イスラエル支配の浸透、そして③イスラエル軍による管理の強化である。一方で、両都市における運動は、抵抗運動におけるアクターや運動の役割・性質が異なると指摘がなされた。エルサレム側のアクターがイスラエル領内のイスラーム運動のほか、欧米の援助機関であり、エルサレムにおけるアラブ系住民の生活向上や平等な権利の獲得を目的とした「政治的な」運動が展開されているのに対し、ヘブロン側のアクターはパレスチナ暫定自治政府(PA)系の組織で、あくまで「自治的な」運動に留まっており、1997年のヘブロン合意を打開していくような「政治的な」運動が展開されておらず、「「動」のエルサレムと「静」のヘブロン」という言葉を使い、両都市における運動の対称性が示された。
質疑においては、エルサレムに対してヘブロンは比較対象として成り立つのかという指摘が目立った。エルサレム側においてはイスラエル・アラブが主体であるのに対し、ヘブロン側の主体はPA系の組織であり、主体が大きく異なることで同列に考えることが難しいほか、日常における抵抗が主題であるにもかかわらず、個人レベルの抵抗ではなく、集団によって展開される運動に注目している点も問題点として挙げられた。このほか、研究の背景の部分でヘブロンに関する記述が不在であることから、ヘブロンの政治性が顕在化されてこなかった理由の再検討が今後の研究の前提として必要であると指摘されるなど、研究の本質部分を中心とした活発な議論が展開された。

文責:木全隼矢(一橋大学大学院修士課程)

■戸澤典子(東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻・修士課程)
イスラエル入植政策:1980-現在に続く
―イエッシャ評議会の政治的影響力とユダヤ人社会を考察―」(仮)

戸澤氏の報告は、宗教シオニストの急進的入植者運動のグーシュ・エムニーム運動を母体とするイエッシャ評議会が入植政策に政治的影響力を与えるシステムを担保できた、その理由を探ることを試みるものである。イエッシャ評議会とは、1980年に設立され、入植者の利益確保と団結を目指すことを建前としたが、実際は政治領域への影響力強化と入植拡大にとって必要な世俗入植者の増加を目標とした半官半民の団体であった。具体的に、この団体は、政治介入する為に、グーシュ・エムニーム運動の傘下に設置されず、各地方自治体、地方議会、地区議会の翼下に置かれた。また、議会へのロビーイング、中央政府、関係省庁、世界シオニスト機構、ユダヤ基金と接触しながら、そしてグーシュ・エムニーム運動と携わる入植者を地方議会、地区議会の議員にすることで、政治的・経済的な利権を確保しながら、入植地拡大に向けての行動をとってきた。
報告者は、イエッシャ評議会の活動地点といえる、市議会、地方議会、地区議会に着目をしながら、イエッシャ評議会のその政治的影響力を分析することを明らかにした。そして、イエッシャ評議会や宗教ナショナリストグループが政治領域へ一方的に影響を与えてきたといった内容を扱った先行研究を参考としながら、報告者は、仮説として、政治領域でイエッシャ評議会の政治的影響力を構築するシステムを支えた要因を2つ挙げた。
一つ目は、イスラエルの左派・右派政権に限らず大イスラエル主義を唱える世俗ナショナリストにとって、イエッシャ評議会の母体であるグーシュ・エムニーム運動のイデオロギー(シオニズム的)は受容しやすいものであったために、世俗ナショナリストの協力を可能としたのではないのかと提示した。
二つ目は、イエッシャ評議会が入植者の市民利益を代弁する団体として、同時に地方自治代表者の団体として位置することの重要性があったのではないか、つまり、市民社会と中央政府の「中間」的な役割を担っていた点から、必要とされていたのではないかと仮説を立てた。
質疑応答では、宗教勢力の正統派と政府との関わり合いに関する議論がなされた。例を挙げると、徴兵の制度化に対して、正統派ラビの間でどのような議論があったのか、また、イエッシャ評議会がイスラエル国内でどのように認識されているのか、といった質問が挙げられ、非常に活発な議論が展開された。

文責:大内美咲(日本女子大学文学研究科史学専攻・博士課程前期)