Jampeissova氏近代中央ユーラシア史講演会 報告

 本講演会は、AA研中東イスラーム研究拠点(人間文化研究機構現代中東地域研究事業)および、 平成28年度科学研究費基盤(C)(研究代表者:野田仁、課題番号:15K02914)の共催により開催された。報告者のJampeissova氏(L.N.グミリョフ名称ユーラシア国立大学(カザフスタン))は、” Imperial Statistical Research in the Kazakh Steppes: (Late 19th-early 20th Centuries): the making of the “nomadic communes””(カザフ草原における帝国統計調査(19世紀後半~20世紀初頭):「遊牧社会」の設置について)と題する報告を行った。
 報告によれば、F. Shcherbina(1849-1936年)の主導による統計調査は、Shcherbina自身が持っていた社会主義的思想を背景として成立し、「平均」的な遊牧民世帯が持つであろう牧地を想定し、それを越える広さの土地を「余剰地」として確保することに主眼を置いていた。そのため、社会的平等性の担保も、カザフ遊牧民の牧地を画定する上で意義を持っていた。また報告の中では、調査の結果としての遊牧地の境界画定や地図作製にも言及があった。
 質疑においては、調査の計画そのもの、調査者の狙いなどに関心が集まり、報告者からもロシア帝国の植民地統治の文脈と照らし合わせたうえで回答が行われた。総じて、19世紀後半から20世紀初頭にかけての、中央ユーラシアにおける変動の時期について、帝国の植民地統治がもたらす社会の変容・認識の変化を新しい視点からとらえなおす機会となったと言えるだろう。

文責:野田仁(AA研)