2020年度第1回 パレスチナ/イスラエル研究会 報告

■島本奈央(大阪大学大学院国際公共政策研究科・博士後期課程/日本学術振興会・特別研究員DC2)
「Collective Punishmentを通じた現在のパレスチナ占領政策制度の一考察」

島本奈央氏(大阪大学)の報告は、イスラエルによるcollective punishment(集団的懲罰、連座罰などと訳される)の政策について国際法の観点から分析するものであった。collective punishmentは、特定の罪を犯したとされる個人だけでなく、その家族や居住共同体にも罰を科すことを指し、家屋破壊や遺体の返還拒否、境界の封鎖、外出禁止令などが代表例である。2015年にパレスチナ自治政府がICC(国際刑事裁判所)に加盟して以来、collective punishmentを含む、イスラエルの対パレスチナ政策を「戦争犯罪」として認定させる試みが進んでいる。ただし、島本氏によると、collective punishmentの定義や範疇については、意外にも、国際法上の共通見解が構築されているとは言いがたく、それ自体を一括して戦争犯罪と認定することは未だ難しい。特に議論の争点となっているのは、collective punishmentに「様々な程度の重さ」の犯罪行為が含まれていることである。島本氏は、この問題に対する一つの提起として、個々の政策(例えば被占領地の検問所の封鎖など)の累計という視点を導入し、「微細な犯罪」の累積もcollective punishmentを構成する可能性があると指摘した。
報告後の質疑応答では、collective punishmentのみならず、パレスチナ問題と国際法の適用に関わる広範な議論が行われた。島本氏の報告は、国際人道法の文脈を重視したものであったが、人権法の観点を組み入れることで新たな活路が見いだされうるといったコメントがあったほか、そもそも、イスラエル政府がcollective punishmentを行う際の法的根拠は英国委任統治期の法令にあることから、「植民地主義の責任」という歴史的視点を追加する必要があることも指摘された。島本氏は、種々の質問に対して、国際法の知見を活かした応答を行い、総じて活発な議論が展開された。

文責:山本健介(日本学術振興会・特別研究員PD〈九州大学〉)