2020年度第3回 パレスチナ/イスラエル研究会 報告
◾️菅原絵美(大阪経済法科大学国際学部・准教授)「イスラエル入植地をめぐるビジネスと人権:国際的な人権保障制度における企業の責任と本国の義務の展開」
菅原絵美氏は、企業活動に関連する国際人権規範の発展、そしてイスラエルの入植に関与する企業を問題視する国際的動向について発表した。
主要な国際規範に、2011年に国際連合人権理事会に承認された、「ビジネスと人権に関する指導原則」がある。指導原則は、人権を保護する国家の義務と並んで、企業には人権を尊重する責任があるものとし、自社の事業はもとより、サプライヤーやビジネスパートナーなどによる人権侵害も防止・救済する努力を求める文書である。条約と違って指導原則には法的拘束力はないが、権威のあるものとして多国籍企業の人権方針のなかに、また英国やフランスなど国内法規制のなかに取り入れられてきた。
国連では近年、入植に関与する企業活動が次第に問題視されるようになっている。フォーク特別報告者の2012年報告書に次いで、人権理事会の調査団も企業の関与に着眼した。そして入植関与企業のデーターベースが構築されることになり、2020年2月にようやく関与企業リストが公表された。作成段階で姿勢を変えた企業もあり、今後の動きが注目される。また、菅原氏は、多国籍企業の本国(本社のある国家)の責任を問う動きが活発化し、またOECD多国籍企業行動指針に基づくナショナルコンタクトポイント(英国での入植関与企業2社に対する申立など)や様々な国際人権手続(個人通報など)での訴えが増加するだろうと指摘した。
質疑応答では、日本のビジネスと人権に関する行動計画に入植関与問題が明記されていないことや、紛争地において企業は更に慎重な事前調査などを行い、人権侵害に関与しないように努める必要があることなどについて議論があった。
文責:髙橋宗瑠(大阪女学院大学国際・英語学部・教授)