2021年度第1回 パレスチナ/イスラエル研究会 報告
◾️役重善洋(大阪経済法科大学・研究員)「パレスチナ問題をめぐる地政学的変化とキリスト教シオニズム」
役重善洋氏(大阪経済法科大学)による報告は、キリスト教シオニズムの性質を振り返り、その歴史的展開やパレスチナ問題の現状との連関、さらに批判的議論について俯瞰するものであった。
キリスト教シオニズムを「現在のイスラエル・パレスチナを構成する地理的領域に対するユダヤ人の支配を促進ないし維持するために、特にキリスト教徒の関与によって起こされる政治的行動」とする定義を紹介しつつ、その本質的特徴として①ユダヤ人/異邦人という二分的世界観、②終末論の影響、③欧米中心主義・イスラモフォビアの影響、④宗教ナショナリズム的・例外主義的性質、⑤中東における覇権外交との連動といった点を挙げた。
そのうえで役重氏は、16世紀から現在に至るキリスト教シオニズムの歴史的展開についてまとめた。主に英・米にて、ディスペンセーション主義に基づきユダヤ人帰還論を支持する神学が、国家の政治的野心とも接続しながら発展し、親シオニズム的政策やロビー団体の設立に結実してきた。日本やアジア諸国でも複数の団体・国際会議がこうしたキリスト教シオニズムを継承・展開している。
こうした動きに対し、キリスト教世界の内部からも批判が生じた。在パレスチナのキリスト教各教派や、米プロテスタント主流派諸教会をはじめ、近年では福音派の中からも神学理解を異にする動き、さらにはアジア諸国のキリスト教団体等からの批判も散見される。役重氏はこうした批判的な立場がネットワークを構築しつつあり、イスラエル側がキリスト教シオニズムを利用する状況への対抗軸として位置づけ得ることを示唆した。
質疑応答では、キリスト教シオニズムの現状と、昨今の米世論や政策における変化との関係性を中心に、活発な議論がなされた。根強い支持基盤の存在や、神学的・構造的変化は簡単には起こらないことが示唆されつつも、複数の観点から変革の兆候が見られること等も指摘された。
文責:ハディ・ハーニ(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教)