2020年度第2回 パレスチナ/イスラエル研究会 報告

■澤口右樹(東京大学大学院総合文化研究科・博士後期課程)
「「イスラエル人女性兵士にとっての前線部隊の経験とは:経験部隊の異なる女性間の比較分析」」

澤口右樹氏(東京大学)の発表は、イスラエルの女性兵士において、経験部隊の違いはどのような影響や差異を与えているのかに着目したものであった。
はじめに、イスラエルにおいて政治・経済と軍の関係は極めて密接であり、軍でどのような立場で従軍したかがその後のキャリアに影響を及ぼすことが説明された。また女性は主に後方支援部隊で従軍する傾向があるものの、近年では前線で従軍する女性も増えていることが説明された。
続いて歴史的側面の解説も行われた。かつて女性兵士の役割は新移民のケア等に限定されていた。しかし、90年代には軍隊内でのジェンダー平等は一般社会のジェンダー平等に影響するという観点から、より多くの職種を女性に開放するべきという見解が広がり、現在では前線での戦闘職を含め8割以上が女性に開放されている。澤口氏は、前線兵士へのインタビューを行った。その中で前線部隊の兵士が後方部隊を「つまらない」や「意義がない」と語っているとした。さらに、軍内のセクハラに対し、前線部隊の女性兵士の方が後方部隊よりも問題視する傾向が多いとし、前線部隊を後方部隊より優位に位置付けるヒエラルキーが影響しているとした。しかし、一方で前線部隊の女性兵士たちは同時に自らを男性兵士に比べて劣位と見なすヒエラルキーを受容しているとした。
質疑応答では、「前線部隊」「後方部隊」という区分の妥当性や、イスラエルの文脈における「アラブ」「マイノリティー」の位置づけやその内実などを巡って、非常に充実した議論がなされた。

文責:井森彬太(東京外国語大学大学院総合国際学研究科・博士前期課程)