2020年度第5回 パレスチナ/イスラエル研究会 報告

◾️近藤重人(日本エネルギー経済研究所中東研究センター・主任研究員)「湾岸諸国の対イスラエル・パレスチナ政策:各国の政策の違いとその背景に関する考察」

 近藤重人氏の報告では、主に湾岸協力会議(GCC)加盟国の対イスラエル・パレスチナ政策の違いについての分析が行われた。まず湾岸諸国のイスラエルへの一定の歩み寄りが、オスロ合意後の1990年代に散見されたこと、また第二次インティファーダ以降それが後退したこと、加えて、2010年からはイランの脅威によるパレスチナ問題の後景化などについて触れられた。続いて、国別の考察では、UAEがイスラエルと国交正常化した背景には、対イラン感情のみならず、自国の経済の発展や技術の向上、アメリカとの関係正常化、あるいはトルコ、カタル等への対抗措置など、様々な側面があったことが述べられた。さらに、バハレーンについては、90年代から親イスラエルの気質が見受けられ、それが現在も続いていること、サウジアラビアの観測気球としての役割を果たしてきた側面も認められたことが指摘された。一方で、サウジは近年のムハンマド皇太子とイスラエル、アメリカとの急接近の中にあって、未だにサルマン国王の意向である反イスラエル政策が根強いこと、カタルにおいても、ハマース支援や反イスラエル的な傾向が認められるアルジャジーラの運営から、イスラエルとはガザ支援上特殊な関係がありながらも、決して相容れないものであることが述べられた。最後に、クウェートに至っては、湾岸戦争のPLO批判があるにも拘らず、議会レベルで親パレスチナ感情が非常に強いことなどが挙げられた(なお、オマーンは中立的)。まとめとして、UAEとバハレーンに続きイスラエルと国交正常化に乗り出すGCC国はまだないが、サウジをはじめ世代交替によって、より多様なイスラエル政策が進む可能性、特にそこにイランの脅威が影響していることが述べられた。 

 今回の報告では、GCC各国が実に多様であることが改めて認識された一方で、強いて一貫性を見出すとするならば、ナショナリズムを主張するイスラエル・湾岸各国と、イスラム主義を掲げるイランの対立のようにも感じられた。そして何より、パレスチナ人が求める尊厳の回復や国への帰還といった人権の問題からの乖離も、改めて認識する機会となった。 

文責:金子由佳(立教大学兼任講師・元JVCエルサレム事務所)