2020年度第4回 パレスチナ/イスラエル研究会 報告

◾️南部真喜子(東京外国語大学大学院総合国際学研究科・博士後期課程)「パレスチナにおける女性の逮捕・投獄体験」

 南部真喜子氏の報告は、パレスチナにおける逮捕・投獄の体験について、女性の投獄をめぐる語りに着目して分析するものであった。投獄は、イスラエル当局に逮捕され、イスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ人の体験を指す。イスラエルの占領に対する抵抗活動の中で逮捕者が出ていることから、投獄された個人の経験というのは社会的に英雄視される傾向がある。しかし、男性の投獄経験に比べ女性のそれは語られにくく、監獄を男性の空間とみなす傾向があることを南部氏は指摘する。その理由として、数が少ないことの他に、抵抗運動への女性の関与に対する尊重が男性ほど大きくないこと、女性の投獄経験が、性的に傷付けられたかどうかという点に収斂される傾向が強いことなどが挙げられ、これまでは、投獄が家族関係にどのような影響を与えたか、あるいは家族の不在とどのように向き合うかを中心に研究がなされてきた。しかし近年では、女性の投獄経験を扱った映画、本、研究が増えており、今回の報告は、時を経て語られるもの、出産と投獄、囚人と家族というテーマに焦点を当て、その描かれ方を分析した上で、投獄体験と表象のされ方がパレスチナ社会といかなる関係性にあるのかを考察するものであった。南部氏は、時を経て語られるようになったものや、証言よりも自身の言葉で語ることに重きが置かれた体験集などがあることを挙げ、その語りが拷問の証言だけに限られるものではなく、しかし、それを明らかにすることなしには他の投獄体験も語られなかったこと、女性の語りについての議論が増えている中で、何が語られるかという裾野も広がりつつあることを指摘し、同時に、それらには男性の投獄の問題にも通じるところがあるのではないかと見解を示した。

 報告後の質疑応答では、パレスチナにおける女性の投獄に関して、とくに出産と投獄にまつわる議論が交わされたほか、女性への性暴力に関する一般的な語りと、投獄された女性への性暴力の語りを比較した際にどのような違いがみられるのか、また、投獄された男性への性暴力被害は語られるのか、そこに女性との語りとの違いはみられるのか、さらには、パレスチナをめぐる歴史的な流れの中で作り出されてきた他の女性像と投獄にまつわる女性像がいかに接続しうるのかについてなど、南部氏が現地で得た情報などを交えつつ、活発な議論が展開された。

文責:濱中麻梨菜(東京大学大学院総合文化研究科・修士課程)