2020年度第6回 パレスチナ/イスラエル研究会 報告
◾️中西俊裕(帝京大学経済学部・教授)「湾岸戦争30年:現地取材を回想し、中東和平、湾岸情勢など域内への影響を考える」
中西俊裕氏(帝京大学)の報告は、イラン・イラク戦争以降の湾岸諸国とその周辺の安保情勢について、日本経済新聞記者としての自身の取材経験を交えながら、主にイラクのサッダーム・フセイン政権の盛衰と対米関係を軸に概観するものであった。
湾岸危機・湾岸戦争の前後では、イラクの政策とそれに対応した各国及び国際社会の動静や現場の混乱が、現地経験の豊富なエピソードとともに臨場感をもって描写された。続いて、湾岸戦争後の中東の安全保障や和平交渉の構造変化、及びイスラーム主義を標榜する非国家アクターの台頭が、サッダーム・フセイン政権の弱体化及び欧米のプレゼンスの高まりとの関係において説明された。米一極化が深まる中でのイラク戦争は、中西氏による湾岸戦争との比較によると、9.11を背景に米の先制攻撃論に導かれ、中東の地域的均衡への配慮を欠いた政策により実行されたために、地域の安全保障に深刻な混乱を招き、現在まで続くイラク及び周辺地域の不安定性をもたらした。
質疑応答では中西氏の記者当時の中東での取材事情や冷戦構造及びロシアの中東における影響、駐在日本企業の動静など幅広いトピックが議論され、中西氏自身の知見と考察をもとに多角的かつ詳細な応答がなされた。
文責:中村俊也(京都大学総合人間学部)