2016年度第2回 政治変動研究会 報告
■ 坂梨祥(日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究主幹)「イラン・イスラーム共和国体制における選挙」
本報告は、「数多くの制約が存在するイランの選挙に、人々はなぜ参加し続けるのか」という問題関心に基づいている。「イスラーム共和国」としての選挙の意義と、大統領選挙・国会選挙・地方評議会選挙・専門家選挙の制度や結果が説明され、各選挙における種々の制約も指摘された。続いて、アフマディネジャードが再選された2009年の第10期大統領選挙につき、選挙後の抗議行動や選挙結果に関わる疑念、体制の「全体主義化」といった評価などが論じられた。それにもかかわらず、人々は積極的に選挙に参加し続け、近年の選挙では特に若い世代でその姿勢が強まっている。
その理由として、選挙民と体制の双方にとって、上記2009年大統領選挙はいわば「反面教師」となっている状況が指摘された。選挙民サイドでは、体制への信頼は欠如しているものの、自由な意思表明を行なうこと自体に選挙に参加する意味を見い出し、それが多様な社会集団間の利害調整の場として選挙が機能することにつながって、全体主義化を阻止していると考えられる。体制サイドでも、体制への幅広い支持を強調するには幅広い選挙参加が必要であり、2009年大統領選挙への反省に立って、それなりに多様な候補者と自由な討論を容認して、体制の正当性確保を図っているとみられる。
■ 辻上奈美江(東京大学特任准教授)「サウジアラビアの地方評議会と諮問評議会における女性―選挙・任命と変化」
本報告は、サウジアラビアの諮問評議会および地方自治評議会の制度改革、とくにそこでの女性の参加に関わる問題を通して、サウジアラビアの民主化の可能性を考察したものであった。2011年アラブの春に際してアブドッラー前国王から諮問評議会への女性参加が表明され、2013年の第6期諮問評議会議員任命(定数150名)で30名の女性議員が誕生した。続いて、2015年に実施された州や市町村の地方自治評議会選挙(定数の半数を選出)に初めて女性の参加が認められた。選出議員総数2100名に対し男性約6000名、女性約900名が立候補し、21名の女性が当選した。
任命された30名の女性諮問評議会議員、地方自治評議会選挙の内容、各種評議会における女性の活動状況などが解説された後、男女隔離が選挙や評議会においても依然として存在していることや、選挙や評議会そのものの政治的影響力の限界、既得権益層を揺るがさないエリート女性や有力部族出身女性の政治参加といった問題が指摘された。石油収入が低下している状況でも、選挙や評議会が民主化の進展につながる可能性は、少なくとも現時点では低いとの評価が示された。
文責:松本弘(大東文化大学・教授)