2017年度第1回 政治変動研究会 報告

■ 村上拓哉氏(中東調査会研究員)
「湾岸地域における『アラブの春』後の民主化運動の挫折―オマーンの事例を中心に―」
コメンテーター:堀拔功二氏(日本エネルギー経済研究所・中東研究センター研究員)

報告では、まず2011年「アラブの春」に関わるアラブ各国の政治変動が整理・分類され、そのなかでのGCC諸国の位置付けがなされた。GCC諸国の多くで民主化に関わる政治変化が生じなかったなか、オマーンのみがモロッコ、ヨルダンと並んで部分的な民主化改革を見せたとの評価がなされた。
次いで、オマーンにおける2011年当時の政治状況が説明され、反政府デモが体制変革を求めるものではなく、制度改革や経済政策を求めるものであったこと、デモの参加者や一般民衆の予想を裏切るほどに政府によるその要求実現が早かったことなどの特徴が指摘された。むろん、その内容は「上からの民主化」であり、国王の強力な権限など、残された課題は多い。また、2011年の政治改革以降、諮問議会の活動が活発化する反面、政府を批判する議員やジャーナリストなどへの締め付けが強まるなど、反動も見られる。
報告者のオマーンでの調査によれば、2011年には人々の諮問議会への期待が大きかったのに対し、現在では諮問議会への失望や不満を口にする例が多いという。上記した政府による締め付けに関しても、メディアなどで議論にはなるものの、それは大規模な抗議運動には発展しない。その理由は未だ判然としないが、報告者によるとりあえずの考察として、①すでに政府高官の汚職摘発が十分になされたこと、②石油ガス業界のストライキや解雇に際して政府がオマーン人の雇用を擁護していること、③人々にとって改革の担い手は諮問議会ではなく国王であるのだが、その国王が病気のため、さらなる改革を求めることができないことが指摘された。
今後の展開としては、国王特別代理(オマーンは皇太子を設けていない)であるアスアド副首相(国王のいとこ)が王位を継承した後、国王が実権を行使せず、首相以下の政府に国政を委ねる立憲君主制を、緩やかに進めることになろうが、現カーブーズ国王が「偉大」すぎるために、その転換が順調にいくか否かが焦点となる。
これに対しコメンテーターより、オマーン事例の興味深さとして、①国民生活に直結した経済問題が公に議論されている、②国民からの陳情が政策に影響する、③ストライキが公然と認められている(法的にはストライキは許可制なのだが、すべてのストライキは許可を取らずに発生し、これについて政府は黙認状態にある)ことが挙げられた。これに関連して、王制諸国の民主化と「王様のジレンマ」との関係も論じられた。
また、GCC諸国の石油天然ガス埋蔵量や経済状況が示され、そこから税制・補助金制度の改革といった避けて通れない今後の課題と、その実現の困難さが今後の政治変動のカギとなるのではないかと指摘された。

文責:松本弘(大東文化大学・教授)